堀川りょう著:コラム第3回!
グローバル声優でチャンスを掴む
「YouTuber声優」の登場
昔、アニメ声優の活躍の場はほとんどがテレビでした。
この「テレビ」というものの出現は、アニメ業界のみならず、エンターテインメント界に革命的な変化をもたらしたと思います。
僕が子供のころは、映画と舞台が主なエンターテインメントでした。
そこへ初めてテレビという媒体が出てきたときは、実に衝撃的でした。
テレビ自体は非常に高価でしたが、買ってしまったあとは、家にいながらにして、無料で映像を観ることができます。そのことに皆興奮し、こぞってテレビを買いました。
ところが一方で、テレビ俳優の地位は低かったのです。映画俳優がテレビに出ると「落ちぶれたなあ」 などと言われてしまう時代だったのです。
今や、その垣根はどこにもありません。テレビドラマに出ない映画俳優などそうそう見当たりません。つくづく時代は変わったものだ、と思います。
突然、なぜこんな昔話をしたかというと――。 今、同じことが起こっているからです。
現代においては、「インターネット」が当時のテレビと同じ位置を締めつつあります。
大御所と言われるような声優が、もしネット配信のアニメに出演したら、「え?」と違和感を持たれる。そんな時期もありましたが現在はすでにその移行期間も終わった感があります。
アニメの主戦場にネットが含まれているのです。
もちろん映画やテレビがなくなることはないでしょうが、そこにネットも価値あるメディアとして加わり、存在感を増していくでしょう。
そう考えている僕たちは、学院内に「YouTuberコース」を設けています。
YouTubeの中では、全くの「素人」が芸能人よりも人気を博していて、中には億単位の年収を得ているYouTuberもいます。
今や大スターとなったジャスティン・ビーバーも、YouTubeで人気に火がつきました。ユー チューブは、チャンスをつかむための金の鉱脈なのです。
売れない声優はアルバイトで食いつながなくてはならない、という話をしましが、YouTuberとして成功すれば、その問題も解決することができます。
クリエイティブなことと全く関係のないアルバイトをするより、YouTubeで自己表現して稼いだほうが、やりがいもあるし技術も向上します。
人に見られることで、ますます研鑽を積めます。
そこで僕たちは、どんなYouTuberが人気を集めるのかという研究を行い、そのノウハウを生徒たちに教えています。YouTube作品のプロデュースも行っていて、その登録ユーザーはなんと6万人を超えています。
この辺のノウハウを語り出すときりがないのですが、YouTubeという新しい世界が、声優のさらなる活躍の場となることは心に刻んでほしいです。
僕の生徒にならなくたって、YouTubeで自己表現することなら誰でもできます。独学の場としても、YouTubeは最適な場です。
YouTubeの視聴者は、日本に限らず、世界中の人がYouTubeで動画を観て、ダイレクトに感想を送ってくれます。
自分の実力が生で評価される場だから気は抜けませんが、面白い作品を作りさえすれば、営業などしなくともファンがつき、世界中から応援してもらえるような声優になることができます。
ワクワクするような話ではないでしょうか。
「グローバル声優」を目指せば、チャンスは倍になる
ワクワクついでにもうひとつ、大きな話をしましょう。
声優の新たな活躍の場として今、注目すべきは海外です。 海外で日本のアニメが人気、と聞いたことがある人は多いでしょう。
が、その人気は日本人が想像するよりも、はるかに高いのです。
日本のアニメのほうが自国で制作したアニメーションよりも隆盛、という国は珍しくありません。
英語圏では、「アニメ(anime)」といえば日本製のアニメを指します。日本製以外の作品は、「アニメーション」と呼ばれます。ディズニーの作品なら「ディズニーアニメーション」です。
つまり日本のアニメは、それ以外のアニメとは「別枠」なのです。圧倒的なクオリティを誇る特別なコンテンツとして、熱く支持されています。
日本でテレビ放送されたアニメは、違法・合法を問わず、その日のうちに英語やフランス語やスペイン語や中国語の字幕が付いて、ネットにアップされます。これだけでも、影響力の大きさがうかがえます。
アニメ関連のイベントも盛んです。
日本人ではあまり知らない方もいらっしゃるのですが、多くの先進国では「アニメコンベンション」というイベントが頻繁に行われています。
これは日本のアニメだけを取り上げた、いわば「お祭り」です。
アメリカでは年間約400回、400カ所で行われます。
単純に計算しても、1日に1回以上、どこかでコンベンションが行われているということです。
僕もそこにしょっちゅう参加し、サイン会や握手会をはじめ、さまざまなパフォーマンスを行います。
パネルディスカッションでは、ファンの方々の質問にも答えます。コンサートの時間にアニソンを歌うと、会場は大盛り上がりです。日本語で歌っても皆、一緒に合唱してくれます。
こうした場があることを日本のアニメ制作者があまり知らないのは残念です。 知っていても「言葉の壁」が気になるのか、数日にわたって拘束されるのが負担だからか、あまり積極的に打って出ません。もっとワールドワイドに拠点を広げ、次代の声優たちのチャンスを増やしたほうがいいと思うのですが・・・。
ともあれ僕は微力ながら、自分の活動を通してアニメのグローバル化を積極的に促進し、未来への可能性を拓きたいと思っています。
外国で熱狂的に支持される日本のアニメ
そんな中で、ある日驚きの体験をしました。
アメリカシアトルのアニメコンベンションに出席したときのことです。
会場で魚をさばくパフォーマンスをしていた男性が、僕の姿を見るや、「You must be Ryo Horikawa!」(あなた、堀川りょうさんでしょう!)
と声をかけてくれたのです。
どうやら僕の知名度は、随分高いようなのです。
アメリカには 1億3000万人、日本の総人口と同じくらいの数のアニメファンがいます。その人気は作品だけでなく、声優の人気にもつながっています。
火付け役は、僕も深く関わっている『ドラゴンボール』シリーズです。
全米一のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」では、全店の店頭に『ドラゴンボール』のDVDが置かれていて、何十年もコンスタントに売れています。
僕に声をかけてくれた男性も、このDVDを通して、「ベジータの声の人」である僕を知ってくれていたに違いありません。
ちなみに、字幕版を見る人は僕の声を聴くことになりますが、「ドラゴンボール」シリーズの場合は アメリカ人の声優も参加し、吹き替えを担当しています。
ベジータ役を務めてくれるのは、クリストファー・ロビン・サバットさん、通称クリスさんです。彼は英語版『ドラゴンボールZ』の声優を務めただけでなく、音響監督も担当しました。
TV放送された『ドラゴンボール改』の英語版を作っているのもクリスさんです。そのご縁で、しばしば日本で一緒にライブも行っています。
こうして国際交流を深めているわけですが、「ドラゴンボール」シリーズの人気は、アメリカだけにとどまりません。
フランスにも「ドラゴンボール」シリーズのファンは多くいます。というより、人口に対する比率から考えると、アメリカをしのいでいると言っていいでしょう。
驚くなかれ、フランスでの『ドラゴンボールZ』の視聴率は60%を超えたこともあるほどなのです。
パリでイベントを開くと、20万人以上のファンが集まります。
なぜここまで人気が高いのでしょうか。
思うにフランスは、何よりも文化を尊ぶお国柄です。だから日本の文化を非常に尊重し、ファンになってくれる人が多いのでしょう。
その流れは、古来脈々と続いてきました。多くのフランス人画家は浮世絵に魅せられ、「ジャポニズム」というひとつのジャンルを作り出しました。
スポーツ界では多くの人が柔道を極め、オリンピックで日本人としのぎを削るほどの選手を輩出しています。
これは、ひとつの芸事や技術において、「道」を探求する日本文化との共鳴と言えるかもしれません。
フランスの人々がアニメを支持する心情も、その延長線上にあるのではないでしょうか。茶道、剣道、柔道などと同じく、「声優道」「アニメ道」のようなイメージを抱いてくれているのではないでしょうか。
そんな彼らに応えるためにも、「グローバル声優」がもっと増えていくことを願ってやみません。
監修:堀川りょう
声優・俳優。
「名探偵コナン」服部平次、「ドラゴンボール」ベジータなど数々の声を担当。他にも「聖闘士星矢」アンドロメダ瞬、「機動戦士ガンダム 0083」コウ・ウラキ、「銀河英雄伝説」ラインハルトなど長年に渡り活躍を続ける、業界の大御所声優の一人。
声優プロダクション「アズリードカンパニー」代表取締役。
声優養成所「インターナショナル・メディア学院」学院長。
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