堀川りょう著:コラム第6回!
声優デビュー
声優としての初仕事はいきなり主役!『ウイングマン』
所属事務所から「アニメ声優のオーディションを受けてみないか」と言われたのは20代半ばのころです。
タイトルは『夢戦士ウイングマン』。
桂正和さんが『週刊少年ジャンプ』に連載していた『ウイングマン』のアニメ化企画で、制作は東映アニメーション。昔から東映の作品によく出ていたこともあって、ご縁を感じました。
が、受かるとは、正直考えてもみませんでした。
そのころオーディションは何人か集まって行われるのが主流でしたが、そのときはテープオーディションでした。セリフの書かれた原稿を読んで、テープに吹き込みました。
シチュエーションもわからぬまま、ただ想像を広げて演じただけだったのですが、どういうわけか、「最終選考まで残ったよ」「決まりそうだよ」と、とんとん拍子に話が進んでいきました。それでもまだ、 僕には現実感が沸きませんでした。
「アニメなんて全く経験ないのに、できるのかな」 「まあきっと、最後は落ちるだろう」などと呑気に笑っていたら、なんと本当に決定してしまったのです。 しかも、いきなりの主役。 何が決め手だったのか、今もわかりません。だからあくまで推測に過ぎませんが、おそらくプロの声優とは一味違う「新鮮さ」を買われたのでしょう。
加えて、僕の声が、主人公のイメージに合っていたという面もあったかもしれません。
主人公の広野健太は、直情的でヒーロー願望の強い少年です。未熟で夢ばかり大きく、最初は失敗ばかり。それがどんどん成長していくのがこの作品の魅力のひとつなのですが、そうした「青さ」や「情熱」と、僕の声がマッチしたのでしょう。
未経験の壁から生まれた「セリフ丸暗記」術
そう言えるのは今だからであって、当時はいきなりの大役に、戸惑うばかりでした。
現場でも、のっけから大きな壁が立ちはだかりました。
とにかく、画面についていけないのです。台本を見ると画面を確認できないし、画面を見たら台本が確認できない。
アフレコ(無声で撮影したあとで声や音を録音すること)の経験がないわけではありませんでした。
実写ドラマでも、ロケで撮影した部分はアフレコをします。特に時代劇の場合、ロケでは車や飛行機の音が入ることも多いので、あとで音声を録り直す。だから、作業自体には慣れていました。
しかし自分の映像に合わせるのと、絵に合わせるのとではわけが違いました。
「未経験」のハンデをひしひしと感じ、冷や汗が流れました。
困り果てた末、とった手段は「シーンごとのセリフ丸暗記」でした。
当時は、1本30分の番組を4つに分けて録っていた。24分程度の本編を4分割すると、1パートは約6分。覚えきれない量ではありません。
しかも当時のアニメは、アフレコ段階ですでに絵が完璧に出来上がっていました。だからイメージも存分に湧く。セリフを丸暗記して、あとは画面に集中した。
これで、最初の壁は乗り切れました。何本か経験を重ねることで、徐々に同時に見るスキルもついていったように思います。 ちなみに、録る順番に関しては、アニメは「ドラマ型」でなく「芝居型」。ストーリーの進行通りに収録する「順録り」です。
野沢雅子さんの若いころは、完全に芝居と同じで、30分間連続で演じる形だったそうです。その間、 誰にも、ひとつの間違いも許されないのだから怖い。
今なら「抜き録り」という方法で、ピンポイントで修正できるが、当時はそんな技術などありませんでした。
28分目で誰かがトチれば、最初から録り直しです。
だから現場は緊張の極み。新人声優ともなると、皆ガチガチです。 僕の時代になれば4パート分割で録るため、その恐怖はありませんでしたが、やはり新人は緊張していたように思います。
技術が不足している若い声優がディレクターのダメ出しを受けている横で、待たされているベテラン声優が「ここは養成所じゃねえんだよな」などと皮肉を飛ばす場面にもしばしば遭遇しました。
厳しい現場だったが、それも悪くないと思いました。
難しいからこそ、面白さが増すのです。
最初の苦労は、僕のチャレンジ精神に火をつけてくれたように思います。
生意気だった若手時代
そんな気持ちで声優の世界に飛び込んだ僕は、「いい作品にしたい」という思いも人一倍強かったです。
声優という仕事に慣れてくるに従って、アイデアもどんどん出てきます。
そのつど監督に話しかけ、積極的に提案しました。
ところが、これが一部の先輩方には生意気に映ったらしい。 「新人のくせに、なんで態度でかいの?」と思われたのです。
子役時代から数えると、実はその先輩方よりも芸歴は長いのですが――というよりも、作品をよくしたいという情熱はきっとわかってもらえるだろうと思っていたのですが、考えが甘かったようです。 陰口を言われ、現場で独りになることもしばしばでした。 もっとうまく立ち回ればよかった・・・と、悔やんでいても仕方がありません。
ここは、仕事で見返すしかないと思いました。
いい仕事をして、信頼してもらうことだけを考えて頑張りました。
そんな僕を助けてくれたのは、二人の先輩でした。
戸谷公次さんと、佐藤正治さん。
お二人に「これから皆で飲みに行くから、来るか?」と声をかけていただいたのをきっかけに、だんだん、皆と仲良くなることができたのです。
戸谷さんはもう亡くなられたが、「ドラゴンボール」シリーズの亀仙人を演じられている佐藤さんとは、よく現場でお会いします。
「あのときは、嬉しかったなあ」と言うと、「まだ言ってるのか」と笑われます。 しかしそれは仕方ないことです。ずっとお礼を言い続けたいくらい、感謝しているのですから。 そうした温かい方々に会えたこと、そして着実に次の仕事に巡り合えたことは、僕の人生で非常に幸運だったと今でも思います。
神様はめっぽう意地悪で、たいした情熱もない人間に大きなチャンスを与えたり、一所懸命努力している人間に苦労させたりします。
「神様のOK」が出るまでは、ただ黙々と頑張るしかありません。OKが出ない限りチャンスはつかめませんし、OKが出ないまま終わることもあります。実際、そんな同業者を、しかも才能あふれる同業者をたくさん見てきました。シビアですが、これが現実です。
しかしひとつ言えるのは、あきらめれば100%、チャンスはなくなるということです。頑張り続ける限り、神様のOKが出る確率は、少なくともゼロにはなりません。
監修:堀川りょう
声優・俳優。
「名探偵コナン」服部平次、「ドラゴンボール」ベジータなど数々の声を担当。他にも「聖闘士星矢」アンドロメダ瞬、「機動戦士ガンダム 0083」コウ・ウラキ、「銀河英雄伝説」ラインハルトなど長年に渡り活躍を続ける、業界の大御所声優の一人。
声優プロダクション「アズリードカンパニー」代表取締役。
声優養成所「インターナショナル・メディア学院」学院長。
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